精巣は胎児の頃にはお腹の中にありますが、犬では生後1~3カ月齢になる頃には左右2つの精巣が陰嚢の中に移動します。
原因としては遺伝疾患であると考えられています。
潜在精巣のデメリットとしては、
①腹腔内および鼠径部皮下に停留している状態のままでは精子形成が全くない
②遺伝性疾患と考えられているため、その犬を繁殖することはよくない
③老齢化と共に、精巣腫瘍が起こりやすくなる
の3点になります。
犬における潜在精巣の発生率は2%(7%未満ともいわれる)程度ですが、潜在精巣の腫瘍発生率は10~15%とされています。
犬では3種類の精巣腫瘍があり、そのうちセルトリ細胞腫の約30~50%は潜在精巣に発生します。
エストロジェン(女性ホルモン)を過剰に産生するタイプのセルトリ細胞腫では、脱毛、皮膚の状態悪化、皮膚の色素沈着、乳頭の腫大などが生じることがあります。
また高エストロジェン血症に陥った10~20%の犬では骨髄抑制による汎血球減少症(初期は白血球増多症)の発現はしばしば致死的となり注意が必要です。
実際に潜在精巣が腫瘍化してしまったワンちゃんの例をご紹介します。
先月12歳の未去勢のワンちゃんの手術をした時の写真です。
今年行った健康診断のX線撮影にて腹腔内に大きな腫瘤陰影が確認されたことと、2005年から片側の腹腔内潜在精巣を指摘していた経緯から開腹手術を実施しました。
お腹を開けたすぐ下に大きな腫瘤が確認でき、予想通り潜在精巣が腫瘍化したものでした。
私の片手だけでは持てないくらいの大きさでした。
同時に陰嚢内にある正常な精巣も摘出しました。
大きさが全然異なるのが一目瞭然ですね。
病理組織学検査の結果は「セルトリ細胞腫」でした。
このワンちゃんは無事退院し、先日抜糸が完了しました。
病理検査の結果悪性細胞が確認されているため、今後も定期的な観察が必要になってきます。
みなさんもオスの犬や猫を飼われている場合、陰嚢の中に精巣が2つあるか確認してください。
もし陰嚢の中に精巣が一つしか触れない、あるいは全く精巣がない場合には獣医師に相談してください。